全生物がねむった

夢を見ているのか つんざく咆哮のとどろき

すら まぶたの闇を突き通せない

予兆も希望もなく ただ茫洋とした空の海を

途方もない巨体が のんのんとわたりはじめる

その目は初めからふさがれ

光という光を吸いこんだ 何千年も

あとは体に刻まれたうたを 沈黙でうたう

るううらら るううらら

線が走ってきて新しい血管となる

運んでいるのは音の粒だ

その先でぽつりと また新しいうたが刻まれる

果てしのない循環

今や音も光も空も海も すべて封じられた

次の咆哮までに 風も化石となるだろう



※この詩は中島弘貴さんの写真からイメージして作りました。
https://www.instagram.com/p/C3pVM6vSupo/

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艦砲射撃の煙幕の夜

しとねにばらまかれた嫉妬の札を

集める指先の冷たさよ

かさねの上張りと下張りのすきまに

祈るように差し入れられた手が

深く隠していた羞恥をなでまわす

心は冬の空のように燃えあがり

赤子のよだれのような濃密さで空無を

ぬわぬわと染め上げてゆく、光

その私のみだらな口唇を

夜更けの空は振り返るようにして

盗み見ている



※この詩は中島弘貴さんの写真からイメージして作りました。
https://www.instagram.com/p/C6vkjdHyJ8U/

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何でもない午後

カーブを曲がった先に 魅惑の釣り針がきらめく

見事な曲線は 欲望をかき立てるための 

ワナだと 標識が教えてくれるけれど

ブレーキはもう踏めない

胸を張り裂いてあふれ出る 漆黒の笑いが止められない

笑いながら目の端では 入道雲の狭間から見下ろす大悪魔

をとらえているのに


銀色のどのウロコをめくっても そこには見慣れた答えが書かれている

ああそうだね そのとおりだね

それも知っているし知っていながら 快感のような黒波のしぶきに

全顔をびちょびちょにされながら

運命というわけのわからない糸で

一個の阿呆のように

いとも簡単に釣り上げられていくのだ

深淵で平べったい虚無の、口

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夏のアジアの腐ったうつくしい便ゾーン、から見る朝焼け
がんっと見開いた血走りまなこからビーム
微細なぷるぷる痙攣のさきを突っ走る、神経と死の列車

がんじがらめの欲望にムチ入れロウソクたらし、遅々ちち浪々らうらう
街の腐臭にまぎれて放屁、老人の勇ましき下半身が空中合体して機械獣
発糞はぽっとん奈落の底へ、妄想が高層へ深層へと右往左往そうしよう

処刑台に掲げられた女教授のうつくしい手首に浮き出るスジ2本に
陰鬱な破戒僧マンクの舌が上下している快楽城の午後ではある
毛をむしられたドバトの鳥肌がぶつぶつと泡おどる

大門から聞こえる呪文のかたちに有刺鉄線のみちみち
現実が人間に見せる無邪気な幻術を幻想というのなら、
この夢もまた滑稽に脱臼しただけの文脈なのだ

激しく隆起する海岸でひろった淫猥な生き物図鑑
に載っていた汚れた古写真の記憶をしぼり出す
分厚いゴム手袋をはめてさあ手術をしよう

永遠にうるおうトポロジー
ドバトがしゃべくるフィロソフィー
危険な描線はホルマリン漬けにしておけ

太古の矢尻のようなメスで白い腹をまっすぐに裂いていく
亜空を見つめるうつろなかんばせに呼びかけてみても虚しい
未来形で書かれた昔話を暗唱すれば、黒目がぐるりと後ろを向く

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アナコンダは沼から起立しおろかな虹色の太陽柱になった。幾何学のかたちをした猛獣が地面からかたどられると、すぐさま柱のよこっ腹にみついて引きちぎった。らう、と蛇はひと声ないて垂直な夜に向かってやわらかい腹を割ると、血も液もないプラスチックのように乾いたはらわたが、まっすぐに跳び出て夜の板を突きやぶった。おかしいかおかしくないか、下半身だけで返事してお尻をまくり上げたまま爪先立ちでポーズするから見てごらん。頭の太陽はぐらっとゆれて、ゆらんゆらん、ぼろん、と背後に落っこちた。形式美のニキビまみれの白眼で蛇の頭がにらみつけても、知らない。轟々と風の吹く静かな湖面から月が生まれて夜は、不完全のまま満ちることにひたすらにとらわれの心。蛇の産卵はなはなだしくも翻筋斗もんどりうって割れ目をひきさき出るわ出るわの大出玉。殻の内側から見る世界のそら美しさ、はかない惰夢をつみかさねるだけでただもう無駄に夢のダムは大決壊、とほうもない夢の濁流と化す。大樹の幹のような太い河、一本。その穂先で夜は描きなおされ、きょとんと空に置かれている。無情となげいてみても虚しい夜空、一本の線が飛んできてにやにや笑いをつけたしていった。すべての卵はかえり、平らな夜の揺籃の上をすうすうとすべりおちたあと、濁流にのまれてすべてつぶれた。蛇の頭が遅い涙で滂沱ぼうだしているがそれもまた、奇妙な夜から朝への緞帳どんちょうだった。

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物語を求める奴が多すぎる

物語禁止令

が発布され、禁を破ったものが捉えられた

ーー捕まえてきました!

ーーよろしい、首をはねよ!

ーー中にスイカが入っています!

ーーよし次っ!

ーーネズミです!

ーーミミズです!

ーー穴です!

ーーちょっと待て! 穴だと?

ーーはいっ穴です!

ーーこいつを連れていけ!

報告した役人は何かをわめいていたが、連れ出されていった

穴はその夜のうちに全土をおおいつくした

人々の肉も魂も絶叫もすべて丸呑みした

王は早々に国を脱出して難をのがれたものの

荒野の野獣に腹を食い破られて地に伏した

穴は夜空に向かって無限大のゲップを放った

人々は物語を求め、その結果

物語の中に飲みこまれたのである

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空気イスに座る男が

目を裏返して脳の闇を見ている

雨の洞窟

割礼の記憶

激痛が呼び起こされ

尖った眼球が脳を刺す

あごがガタガタとふるえ

ついには外れて膝に乗る

間髪入れずにだらりと長い舌が

シュルシュルとコードを巻くように

引っこんで男の気道を容赦なくふさいだ

ギョボッ

イェッ イッ カハッ

弾むように全身が跳ね上がると

まもなくグタッと絶命した

ぽっかり空いた口から

主人あるじを失った舌が

蚯蚓みみずのように

テュルテュルと這い出てきて

屍を舐めはじめた

音もなく

血をたぎらせた

一羽のカラスが滑空し

男の舌をくわえて飛び去る

涙をなくした男は

泣くこともできず

ただ腐っている

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ゆっくりと刀を抜く

番傘は雨でびしょ濡れ

ふんどしが洞窟のように冷たい

蛙もつらにしょんべんを浴びる

「おどれら!」

と言おうとして、「お」から激しくども

まだ刀は、抜いている途中

闇にならぶ濁った目、目、目、目、

面倒なので「お、お、おいッ」とだけ言って走る

ザバッシャバシャシャシャッ、としぶきが上がる

めちゃくちゃに路地を曲がると猫がいる

窮鼠きゅうそ猫を噛むいやいやいや噛めないって

時系列昇順降順無関係にだばだばと襲い来る、敵々の刀々のあめあられ

を、くねくねとよけながら踊る

路地裏ダンスホール

やがて雨は、

やんだ

おれは屍となって仰向けのまま鉛色の空を見ている

どうやらもう少しで刀が抜けそうだ

おれの刀は犬より長い

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ありあまる感情を不出来な箱につめこんで

引き出物として差しだす、それはただれた欲望

吹き出物だらけの美しい顔で、微笑まれても困惑

式場に林立する、反吐をかためて作った人形たち

すべてのペニスはねじ曲がっていて役にたない

オーヴェロバァ〜〜〜

新郎、新、ガーガーピーピー、郎はガーガーピーピー、どこですか

おお、舞台そでで倒れて泡を吹いているじゃあないですか

さすが新婦だ 仕事が早い…ひそひそ声がホールにこだまする

カ・カ・カ・カッ

長いですからね、ご覧なさいあのハイヒーーールを…

オーヴラヴォ〜〜〜

盛大な拍手を! 拍手を!

ミルクを持って来い、ミルクだ

いいね、いいね、の大合唱

蛆ひとつわいていない、ご覧なさいあの美体を…

神聖なる新婦です

記念にどうです踏みつぶしていきませんか、ここに新しい新郎野郎です

写真を撮るのも良いですね、写真屋はあそこで裸踊りをしていますから

おや、笑いすぎて血を吐いた

楽団は演奏を開始

箱を開けると小さな式場だ

欲望が詰まった婚姻式だ

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女は山になった

森林地帯を濃い体液で濡らす

蝸牛は腰線上をすべっていく 

蜘蛛は天球からぶら下がっている

すべては緑からうすいピンクへと、変わる

山女の恥毛にちいさな食台がおかれて、午餐が始まる

牛乳壜のなかに泳いでいるは哲学者

身を屈めて見つめる

太陽光線が卓上を跳ねまわる

不意に、りんごが割れた

今日はもう帰れない、と知る

太陽光線が危険水域を突破して、サイレンが鳴る

ほむらは足元まで来ている 災厄が踊っている

夜の代わりに黒い穴が私を忘却へつれもどす

重さが私を置き去りにしていく

ここでは皆狂っている

狂いのない世界など初めからどこにもなかった

ゆっくりと淡いのピンクへと染まっていく


止まれ

止まるな


あの山は、私だった

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コーチャーのハンドサインは

「脳を割れ、」

すばやい視線で敵を斬る 7人倒れた

おれはZUGAI頭蓋を引き裂いて立つ

NOUがプルルと震える

テレビのなかは生臭い水で満ちて、冷臓庫のHARAWATA臓物が泳いでいる

走り出せ、牽制球を恐れるな、まだ間に合う

深夜のドゥーム

暗闇が目を射る

白い女が見舞い姿で立っている 客席

もう昨日には死んだんだ

おれが遺書を書いたんだ

ブルーインクでおれ宛に

コーチャーはヤニ枯れた歯で笑う

右上2番C1、3番C2、飛んで飛んで6番C4

丸見えになるカリエスたち

を、おれは暗算そらで読み上げる

感情を捨てろ 紙に描いて捨てろ

もう脇腹が痛くてしかたない

滑りこんで白煙が上がる

OUT!!

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〈序章〉

昆虫は電流をうまそうに喰っている

繁殖の速度がぬるいからすぐに絶滅した

地殻変動も起こっていないのに


〈第一章〉

都会の女はスカートを持ち上げ

蒼ざめた顔でコーナーを突っ切っていく

太ももが笑いながら観客席を通り抜ける

楽団がネッケを演奏する

クシコス・ポス


〈第二章〉

大運動会があくびをして閉幕

団長は夕陽の裏側めざして逃げ帰っていく

かろうじて月がその爪をのばし

赤い耳を切りおとした


〈第三章〉

鱗を縫い合わせて皮膚をつくる

金属のように冷たい手がそこにある

テーブルに置かれた両耳

黄金の羽を裏返して、都会の女は眠る


〈第四章〉

(焼失とのこと)


〈終章〉

夜は盗まれた顔を探し回っていた

やむなく太陽がだるそうに朝を始めた

都会の女が朝のパンを焼く

窓の外を、人々が逃走していくのが見える

皆、靴下を履き忘れている

足の裏に陽があたって、まぶしい

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