台所で包丁の先から
孤独がしたたっている

浴槽で2人寝ている
たくさんのバラが散って
赤い床がきれい

冷蔵庫には3人冷えている
かんたんな日曜大工
Do it your self だ

天国だって改造すれば
地獄になる

憎悪のいちばん美しい
弾丸をこめる
やさしい瞳にとどめを刺すため

濡れた髪も思いもにどと
溶けることのない絶対零度へ

玄関はいつだって
開け放してある
おまえのために
Read More ...

身体を装った言葉という飾りを毟り取って、ああ裸体
がすうすうと心細そうな気を吐く

露骨な視線が裸体の薄い膜ごしに透過してくる、暴力にさらされ
しらじらしい女の肌が最後の抵抗を叫んでいる

──偽りだなんてどうして分かるの?

諍うほど力は強く与えられ苦しくなっていくが
瞳の張りは青く透明なままそこにある

頬と尻だけが屈辱で赤く腫れ上がっている
のを心ではとっくにちぎって捨ててしまった

ひりつく荒縄の摩擦さえもぬるく湿っているだけ
そう、口が動かなくたって踝ひとつで笑える

──すべてひん剥いてしまえ!

あらゆる肉と骨を削がれた執行人は
脱力して放尿し顔の中央から陥没後に昏倒した

Read More ...

まず
単純とか純真とか強欲とかいう
根本的あざやかな蠢きがあって
半身を泥々のまま
もたげて憩う

極私的王朝の宮廷で
分割された陶器
ノイズをめこんでパズる
夢から現へ手を伸ばし
ぐったりした蛞蝓なめくじを撫でる
永遠に粘貼ねばりつく指先から
なだれこんでくる"a"らが
金器の果実を透過する禁忌

首をかしげながら肩をすくめる
ぶるッとした仕草を合図に
反り返った指を四本並べて
因果な印を結ぶ
親指から小指の距離より速く
「くる」より濃い
来たら「くるえ」

大漁旗のみだらにひるがえ
釣り上げた滑らかな魚体を陵辱
絨毯に紡がれた煉獄の
糸をほどいてまたつむぐ
ぐるぐる回る自己反復
回帰、快気、怪奇のシュウリンガン
シュウリンガンの自己憐憫
自己憐憫の禽獣を懐柔
BODYはないのですでにそこには
ただくつろぐマグロだけ

孤島に集結したラクダ数万
その首を一瞬ではねる刃を売っている
軒先で老人が傾く角度
というものがある
支那の不思議な役人が
キナ臭い褌を引きずっていく夕暮れ通り
腐った饅頭の頭頂に遊ぶ仙人を
小蝿のように叩き潰して造作もない

長蛇と短蛇がダイヤモンドを一周し
ダイナモ発電する猛烈でも
青黴が繁茂しゆっくり絶望
「ねぇ」とカラダ/コトバを引き割く仕草
散らばるダ/ダ/断/片

髪振り乱して言語切り刻み
噛み砕こうと口に入れ
その鋭角で血まみれに
意地で言葉を転がせば
音より先に舌が膨満、萬膨満

賭博場とばくば ッドッド
鼓動と脈動と紅顔の、群れ群れ
上がり!三発、突貫、満棒
返して青天井九万九千点そこそこ
両耳から突っこむ毛腕
いじくりまわして眼眼球
猛烈に脂ぎってきた禿げ頭
燻してカンマー糜爛びらん
責めるなこの幼気いたいけ
ドゥーブ、ドゥーブ ドゥールのウーブ

真夜中に血沈しコップの底には月沈
れ!
と声がして
自己が激しく飛び出した
密密と埋め尽くされてゆく夜空
目出し頭巾の女が素足で登場
ぎっしり詰まった闇夜を引き裂く
へるまへるま怪盗へるま、愛しいへるま
噯気、げふりと吹きかける

と、つ昇天。
Read More ...

電線のなかを走っている
マグロが見えるかい
電柱の羅列の先に
乾いた小屋がある

高所恐怖を箱に押しこめて
安全装置をつくり
たまご型の有刺鉄線を
柵に巻いておいた

底の知れないティーポットで
茶を飲み続ければ
頭は上手な石になり
揺れて 落ちて 砕ける

床に1名 椅子に0名 あとは風

時計の音がゆっくり歩いて
窓から出かけてゆく

Read More ...

バスが地図の真ん中を割いてやってきた

車輪はもうもうと燃え上がり乗客は影だ

車掌が割れた窓から腕だけで名前を引きちぎる

自分の名前を乗せてバスは出発した

忘却曲線を強引に暴走して消える

あとは

名前をなくした自分とバス停

むなしい形骸、胃痙攣

無銭飲食しかし 胃は食堂に捨ておく

早逃げの足もないが呼ばれる名もない ただ

骨の可動域が人形のようにガクガクとして

わびしい

埋めこまれた悲しみは暴力で吐き出すしかない

全部が好きだったはずのきのうに戻れない

輪郭だけでは生きれないから


(上の詩を以下のように脱詩*した) *脱詩する(depoetise)=詩特有のリリシズム的な要素を排除する

衆人車両は破、地図まっぷ断つ
劫火、豪豪快快 影るる人々
粉砕す、ガラす、窓から出腕 ひっつか名み
衆人車、出っ発おん名ままそ
のカーブ強滑走、残おん音
後背

な無名名者=己おつかつ停場場|棒、粛々ナン
奇々して気が餓鬼の飢餓 胃が歪捻、微々しびれ転
虚貨幣空無、直・逃走せ足無明、無名、解 ゆい
かこつ骨コツ無く泣く、慨々ろう
虚弱輩
内臓内酷悪惨時、憤怒噴出が独希
まったくも全、方、好々や得たが否認悲行
沿う線、
不身体不形態そくて無生むたく

Read More ...

20250401
掘削機械を前みごろに抱えた重機が 涎をたらしてやって来る
秩序みたいな箱(建物)をたたきつぶすような 純真がある
海辺で水着の男女がパラソルの下で飲むカクテルが 機械油
もう帰るホテルはないと海に身投げするも 砂漠の砂があるだけ 
うなずいて夏が閉じ秋のない冬が来て すべては凍りついた

20250321 猫する
猫する という動詞をかんがえて台にのせようとした瞬間 ほんとうに瞬間だった 犬が二本足で走ってきて ほんとうに素早い走りだった ぺしん!と台に犬のステッカーを貼って去っていった すごい目で睨みつけながら だから猫するでなく 猫しに変えてみた

20250317 勝算
この終わりのない寒気の中 「まだ間に合う」に間に合うために もう少しだけ説明が必要だ
広げた新章の冒頭から 行方しれずの「私」が 倒れているはずの路地裏へ たどり着ける勝算もない どんな電卓を操ってみても むなしい音がするだけ

20250316 骨
順序は変えてみたい 生まれて消えるまで 足跡のつま先とかかと 言葉を発して結ぶところ 
音のあとの響きの部分 波頭と凪 密度の消えるきわ 人から自分までの ああ、それね

20250228 事故
大通りの交差点で正面衝突した言葉と言葉が救急車で運ばれていく のを見た
傷ついてばらばらに散らばった言葉 真ん中で寄りそうように固まっている
了としてその場を去れば 大通りは巻かれ巻物に、街はパタンと閉じて書物にかえった

20250227 コインと賭け
このコインには裏がない 表もない 何でも消せる消しゴムで消したのだ 
コインはそこにあるが見えない どの面も消してしまったから 
そう うまくやったのだ コイン自体を消さないようにして
さあこれで賭けをしよう
高らかに投げ上げて いったい何が出るというのか 派手に賭けてみよう

20250226 泣く男
人間状のかたまりが、男になった 男になったとたんに、男をやめた 男だったものは上手に腐り、中から女が飛び出した 女は怒っている、なぜ男が先なのか 女は抜け殻を蹴り上げ、毒づいている 男だったものは、蹴散らされボロ切れのようになった 泣いているのに涙も声も出ない 男はただ消えたいとだけ思ったが、消えることは許されなかった

20250224 刃境
右と左のかたちを変えたい。これは「左右の」ではなく、正しく「右の」と「左の」であって、そう書かずして何のまことが表せるものかは、と思いいたった「右の」「左の」。左右対称の人間が異様に見える。左右対称を正確に見抜く左右対称であろうその目の力も異様に思える。非対称を讃えたい。讃えられた非対称すらも捨ててゆきたい。「右」は右へ、「左」は左へ思うまま進んでいくが良い。その刃境はざかいに鏡などいらない。

20250222 郵便
盗まれた手紙 誤配された手紙 書かれなかった手紙 すべてのガブリエル・クラメールに宛てた手紙に 嘘にさえならない直前の気配だけを空に書いて ポストに入れる振りをする なんてご丁寧なんだ ポストとの会話だけ持ち帰る にしても 未分類の私書箱にたまった手紙には さみしい顔が描かれている 窓口の人は昼に行ってしまった 郵便配達夫が怪しげな館の庭で 失踪する自由を奪ってはいけない

20250221 人生以前
おとうさんではなくお母さんになりたかった 宝石ではなく髭がにあう女がよかった 毛のかわりにカイワレが生える人生でよかった 泣いている子の小さな手 にさえ乗ることはできないで泣いている いつのまにか明日が今日になって 夕日は朝日になって 戸をしずかにたたく

20250220 椅子たち
静かにしてくれたまえ 家具とりわけ椅子の裸体性に関して 闘いつかれた論文は舌を出し逃走をはじめる 午後 おしまいの紅茶を飲むテラスに豪雨 突然 皮を剥がれた椅子たちの行進がはじまる ある後悔 船乗りのつくった詩 が悪筆で読めない パラソルの婦人が勢いよく蹴りあげたテーブル の背骨をひろって土に埋める椅子たち

20250219 傲慢婦人
答のない通路をとおって駆けあがってくるむせり に咳が止まらない 来よ!と叫ぶ向かい家の婦人の傲慢さ、なんという快感 項尻うなじりも蒼々と 尻馬に乗って言語を駆けぬけていく、颯爽さ すでに後れ毛すら見えない彼方で 雷鳴といななき 行かん!の声を投げても届かず それでも声を投げつづける

20250218 駱駝のダージュ
駱駝のダージュ 絨毯にくるまり スルタンのおうちへ 皮の鞭と尻 窃盗におしおき 椰子樹がゆれて実を落とす 砂が鳴った ダージュの足跡 てんてん スルタン酢漬けをもらったお礼に 歯並び競争をする 金銀銅の歯々がずらりと 衛兵の目を焼いた 残酷な道楽 スルタンのあくびに 皆吸いこまれて消えた

20250217 階段より
階段がある 私は階段に住んでいる 階段には階段の理由がある、それを裏返してみればわかる ヤギは出てこない 出てこなくてはならないが、段を踏むことはゆるされない 禁じているのは私だ 母だったかもしれない 階段は抽斗になっていて、乾物や電柱などがしまってある この物語もしまってある さあ、呼び鈴を鳴らせ!

20250213 ダイナモ
少年は散歩で家のそばを通ったとき、電線に脈動する電流が流れていることを発見した 家の中を覗くと男女が抱き合っていたが、頭と足の向きが逆だった 苦しんでいるように見えたので抱擁によるエネルギーを変換するため、少年は運動用具を発明した これは円筒に2つの突起を取り付けて、そこにバネのような金属板を押し付けたものである 彼は次の日同じ家へ行き、男と女の間にこの発明品を装着してやった

20250212 背筋
爪をまっすぐに立てて縦に線を引けば えんどう豆のように鮮やかに開く脊髄の、美 むおんとのけぞるおまえの白首が闇に光る 洗濯女にしては異様になま白い肌にぞっとする 背中から生まれた七つ玉は沼に沈められ 汚物を全身に吸い込んでたくましく、なおいっそう青白くやわらかな鎧をまとって立つ 女も私も滅びたあとの世に、無限の混沌と破壊をそそぐため  

20250207 展覧会で
展覧会へは行ったんです君を見に 受付で豚の屠殺をしていましたね優雅に お腹は空いていますか子供みたいに 人間がすべて裏側から見ているのです絵画なのに たった一枚のタブローを破って捨てますか? 夕刻 全員が自分の影を引きずって帰っていく そういう頭のなかの格闘技なのです ここは・ここには

20250130 過弁と沈黙
読んだっけ読んでないっけ 読みなよ読んでないんじゃん どんどん読んでないが増増殖殖・増殖殖 目を離せば増える増える、今 今今今も書いたよ読んでよと言いたいよ 言いたくたって黙っているよ 本意とか不本意とか、とにかく何かがすぎている ただの現象さなんて、格好付けて言わせておくれ 歯噛み歯噛み、切歯切歯

20250128 首級
午後、打ちだしの鐘のあと猫背の一群が落とした名前を探しながら行進していく。太鼓の乱打、さめざめと最後に一鈴。道の真ん中を風が通っていく街で、男たちが賽を振っている。眉間に走る苛立ちのサイン、終末の風。青天が割れて黒い稲妻、予期せぬ事態。逃げようにもどの家にもドアがない。やむなく穴を掘っては埋まっていく。 首だけでこわごわ空を見上げれば、世界卵の殻を破った子らが流れていく。

20250127 世界卵
秘密の交わりがあった。胎からは生まれず、世界卵から生まれ未知の場所から運ばれてきた片側人間。走ることはおろか歩けもしないのに何よりも速い。常に勝利する見えない星の軌道に乗って、万事が好事、特別に格別。異郷に出会い、同郷に染まらず。型破りだが用心深く、無愛想だが慈悲深い。無い方の片側にすべてはあるという不完全さの完全。何をするにも自由、盤石。片足で立ち、片方だけの口で笑った。

20250126 暴力考
見えざる暴力の行使によって凹まされた自己の凹みを埋める塊は、街なかにある廃線になった駅のホームから伸びてトンネルに消える錆びた鉄路を見るのと同じ重さがある。真の暴力は白く透明で衝撃も激痛も打撃音もなく、ただ発見された迷子のようにその迷走は過去のことでもう迷子ではなくなっている子供の影でしかない。このことはさまざまな歪みもしくは癖、あるいは多面体のように繰り返し示されるだろう、老人の曲がった背骨のように解のない知恵の輪のように。

20250125 オーダー
「ニンゲン 目玉胃袋抜きで」って頼めば、店員さんがニンゲン出すときに目玉と胃袋用意しなくて済むんだよね。使わなかった場合にそれらが無駄になることもない。「素体で」という注文だと、店によっては「お目玉と胃はおつけしますか」って確認するようにマニュアル化されてるから店員さんがめんどくさい。そこまで狂気が回るかどうか考えてるってことだよね。

20250124 まあね
しかしまあなんだ 茶をすする 縁側にすずめの来る 落ち葉がいちまい からだがゆるんでいる まああれだ 猫はいない 吹かれてやっと風をおもいだす いないはずの人に話しかける あれだよなあ すずめが飛んでいって 空が残る ゆびの先がすこしつめたい 手もみをすると背中がまるい 茶はとっくにさめている うすい茶だった 「あれ」は見えない粒になって風にさらわれた なんだか とあたらしい言葉をおいて立ち上がった

20250121 夜を走る
団欒のやわらかい橙色の部屋で、坊やが母の小言に耐えかねて醜い闇を召喚した。地獄計画。窓ガラスは激しく飛び散って厚い幸せにていねいに突き刺さる。髪振り乱した千年前の巨大蛾が鱗粉とともに部屋を激しく飛び回る。ミニチュアの餓鬼と悪魔がぐるぐると輪舞する熱狂のノイズ、規則正しい地団駄のリズム。母は無言で皿を洗っている。やがて話される言葉は宙に停止したまま崩壊を始める。だれもが目を閉じたまま、指差せば消える。家のかたちを残して夜が充満している時刻に、声を失った歯並びだけの笑いが笑っている。輪郭だけで猫を描いた黒いクレヨン。都市のあらゆる壁の中には、生臭い息を殺してひそむ獣たちがいる。ここはそのような点、ただ作用だけがある。

Read More ...

原人だ
肉肉肉 とだれでも思うのだ 
狩人の目つき手つきで猫背になって 吹雪の闇へ
怖気おじけはとうに捨ててきた 
月に浸された女の稜線を 石器かざして突き進んでいけ 
放浪・邂逅・咆哮一発 
ぬすんと倒れる黒影に かけ寄り骸を返せば己のかお 
おお!と抱える頭もない腕もない 
むさぼる自分すら溶けゆく雪の降る 白白白!

洞窟に引きこもって百と十日
三度マンモスが通り過ぎた
腹を決めすべての毛を剃ってみれば予断なく、寒い
おかしくておかしくて、笑った マンモスのやろう
今度来たらぶっ倒す 穂先をキンキンに研いやるのだ

風がびょうびょううるせえな どれだけ降るんだビュルムの冷気よ
火はつきた 腹はすいて目がかすむ
知ってる、明日にはオオカミの餌だろうよ
マンモスをぶっ倒せ! 槍がおれの手のなかで
ふるえた

Read More ...

ベッドという地面に投げ出されて根も葉も生えず、不要不急な人体としての無意味なサイズ感に心を占められそのままでいた。視線の先には天井の模様が土着のダンス。黒人は赤人と、黄人は緑人と、つないだ手をアーチ型にかかげればそのなかに碧の海峡が見える。葦舟にぐったりと小首を傾げた人々が逆さ向きにつながれているのは、アスマット族のビス柱か。漕ぎ手の丸太のような二の腕に白く刻まれた刺青の歯並びがいやらしい。ザトウの群れが白波に浮き沈みし、こげよ、こげよ、と船頭歌をうたう。周りを囲むヤシの木の虚飾さに、とろぴかるというひらがなを当てて苦笑した。指先がかすかにカサついているのを親指でなぞり、口を結んで同じ感覚を唇に感じる。

こんびにという文字がネオン広告のように意識を横切っていく。飢餓感が右下腹からやってきて頭の周りを一周するあいまに、手元の電話が聞いたこともないような音を響かせるので、仕方なく腕の筋肉を使って顔まで持ってくる。画面を押すのにも指が太古の遺跡であるかのような錯覚におちいって、そのまま「あ…」と喉が他人の声を再生した。母親らしい声がしてきたので、朝ですかと聞くと何言ってるの夜中の12時よという文字列を吐かれる。デジタルなんだ知覚は、大脳が勝手に紡いでアナログにしてるんだ、「寝ぼけてるの?」無価値な音の明滅。あなたと談笑するのは嫌いではないけれど今はその時間ではないと思って/言って切電。終話の無音に放り出された自分が見える。

心臓の毛もすべて抜かれてしまったあとで、おれはわたしはぼくはこんびにに行けるのかいけないのかと半日考えていていまだに空腹(くうばら)。咽頭は重く、耳は居場所を探している。ああそうかと耳から立ち上がり、耳から服らしきものをまとう。生活は仕草なのだ。他人の思考を排除して残るのは自分。筋肉の働きに他人の思考は作用しないと信じることで玄関にたどりつき、サンダルを経由して外に出、コンクリートとかアスファルトとかの上を滑って行った。こんびにまで10メートル。実際は150メートルなのだとしても。寒いのか暑いのか、皮膚は何も感じないつもりで無理に沈黙しているが布団の殻から抜け出た今、世界は氷河期で体の芯は頼りなく冷たい。

エイリアンの母船内部のような田舎の表通りに、こんびにが強烈な光の塊を闇夜にむかって嘔吐している。この涅槃は24時間営業だ。天界の門は自動で開き、妙(たえ)なるしらべが天上から鳴り降りてくる。光で白化した内部へと侵入、目はくらみ足元をふらつかせながら一切れのパンと一口のワインをさがす。真っ白な視野の彼方に、特価のライスボールが浮かび上がるので必死に手を伸ばしていく。天よ、とふるえる唇が動くものの吐気だけがすり抜けていく。指腹をとおして響いてくる包装のいかにも人工物らしさに安堵、目も慣れて、ここは下界のこんびにであった。

箱場ではコンビニエンスな顔をした人型がじっと立っている。その全身の筋肉や五感の機能のすべてを裏切ってあえて不動でいることの不気味さを全力で擁していた。これからあの無感無情の像にまみえる儀式を思うとかれはかのじょはこどもはろうじんは意志が後退しそうになる。お守りを、お札を…と探すまでもなく握りしめていたことに気がついたものの、手汗で原型をとどめない鮮やかさ。知ってる、瞳のない半眼から放射されている見えないビーム。架空の視線に、膝も腰も抜かれそうになりながら全身でお札を差しだす仕草がもの悲しい。

するりと引き抜かれたような感覚とともに、手から他質の存在が去っていったのがわかる。ぶら下げられたままの異形の沈黙に耐えきれず、顔面の下から上へ裂けめが生じ不器用な自分の表情が左右に割れる。まるで忘れられた記憶に触れるようなそれだけは滑らかさ。ギザギザに歪んだ声が脳をまっすぐ突き刺すので吐くように応えるかすれ声。声は台のうえにぽとりと落ちた。しかしどうにか新たな一物を手におさめ自動的にきびすを直角方向へかえした。古い油が背筋を流れていく。ある確かさを噛みしめられるのは、成果が袋の底で小さく呼吸をしているからだ。涅槃の自動ドアの向こう、立像が半眼のままこちらにビームを放射している気がやまず、背中が熱い。いいんだもう無関係なんだという呪詛を口のなかでもみしだく。

路上の闇の塊へと体をめりこますと、足指と足指のわずかなすきまにさえ染み入るほどの濃密さ。可愛げもなくただ単に無垢ですという体でさらされている素足がおびえている。白いアスファルトも可能な限りのいやらしさで足を飲みこもうとする。弱々しい足あとが波紋のように広がり、この古びた街のすべてを揺らす。天界の残照が補色となって視界をながれて遠のいていく。体はだんだん希薄になり、どこか違う場所に置き去りにされる。ただ袋の中身だけが魂の塊みたいに存在をゆらしていた。リズムは死者の呼吸よりも浅く、遅い。袋をぶら下げながら、袋に包まれている自分がいた。その重さに支配されるように歩き続けると、立ち並ぶ街灯が作る自分の影がぱらぱらと順に動いていった。足元の影は思いもよらない方向へと伸び、街自身の影とあやしく交わってもっと黒くなる。

なお街は静かに興奮し、膨張し、ねじれているようだった。右へ曲がる角は左へ曲がる角と交わり、建物は建物を飲みこみ、何層にも重なりながら激しくずれ、あえぎあえぎしている。塀の向こう側では木々が息を潜めている。空腹が胃のなかで跳ね上がり、喉元まで達するが飲みこむべきものもなく行き場をなくして頭蓋で破裂し、耳鳴りとなって夜空に溶けていった。

そこは自分の住処なのか、しかしそれもどうでも良くなり兎に角たどり着いたのだと思うことにする。ドアの鍵はない。鍵は自分のなかにあって自分に差しこんで回す。雑な仕様、雑な仕草。中に入れば外ではりついた不快な膜が乾いていっせいにはがれ落ちていく、剥片。同時に、内側からふくらむ新しい温度がある。振りまわされた意識が身体に返ってくるとともに自覚する、すべてを溶かしたいという欲求を失った胃が底でゆれている気配。しかしそれもまたゆっくりと消えてしまった。

袋のなかでは石が身を固くしている。窓の外で街が鳴った。

ーーーーーーーーーーーーー

以下のフォームからあなたの感想をお聞かせください。よろしくお願いいたします。

https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSfISiKy5Rc-73GHrBE1nyttSU7CGhN4DyclRedytm9Iz3pvOA/viewform

Read More ...

全生物がねむった

夢を見ているのか つんざく咆哮のとどろき

すら まぶたの闇を突き通せない

予兆も希望もなく ただ茫洋とした空の海を

途方もない巨体が のんのんとわたりはじめる

その目は初めからふさがれ

光という光を吸いこんだ 何千年も

あとは体に刻まれたうたを 沈黙でうたう

るううらら るううらら

線が走ってきて新しい血管となる

運んでいるのは音の粒だ

その先でぽつりと また新しいうたが刻まれる

果てしのない循環

今や音も光も空も海も すべて封じられた

次の咆哮までに 風も化石となるだろう



※この詩は中島弘貴さんの写真からイメージして作りました。
https://www.instagram.com/p/C3pVM6vSupo/

Read More ...

艦砲射撃の煙幕の夜

しとねにばらまかれた嫉妬の札を

集める指先の冷たさよ

かさねの上張りと下張りのすきまに

祈るように差し入れられた手が

深く隠していた羞恥をなでまわす

心は冬の空のように燃えあがり

赤子のよだれのような濃密さで空無を

ぬわぬわと染め上げてゆく、光

その私のみだらな口唇を

夜更けの空は振り返るようにして

盗み見ている



※この詩は中島弘貴さんの写真からイメージして作りました。
https://www.instagram.com/p/C6vkjdHyJ8U/

Read More ...

何でもない午後

カーブを曲がった先に 魅惑の釣り針がきらめく

見事な曲線は 欲望をかき立てるための 

ワナだと 標識が教えてくれるけれど

ブレーキはもう踏めない

胸を張り裂いてあふれ出る 漆黒の笑いが止められない

笑いながら目の端では 入道雲の狭間から見下ろす大悪魔

をとらえているのに


銀色のどのウロコをめくっても そこには見慣れた答えが書かれている

ああそうだね そのとおりだね

それも知っているし知っていながら 快感のような黒波のしぶきに

全顔をびちょびちょにされながら

運命というわけのわからない糸で

一個の阿呆のように

いとも簡単に釣り上げられていくのだ

深淵で平べったい虚無の、口

Read More ...

夏のアジアの腐ったうつくしい便ゾーン、から見る朝焼け

がんっと見開いた血走りまなこからビーム

微細なぷるぷる痙攣のさきを突っ走る、神経と死の列車

がんじがらめの欲望にムチ入れロウソクたらし、遅々ちち浪々らうらう

街の腐臭にまぎれて放屁、老人の勇ましき下半身が空中合体して機械獣

発糞はぽっとん奈落の底へ、妄想が高層へ深層へと右往左往そうしよう

処刑台に掲げられた女教授のうつくしい手首に浮き出るスジ2本に

陰鬱な破戒僧マンクの舌が上下している快楽城の午後ではある

毛をむしられたドバトの鳥肌がぶつぶつと泡おどる

大門から聞こえる呪文のかたちに有刺鉄線のみちみち

現実が人間に見せる無邪気な幻術を幻想というのなら、

この夢もまた滑稽に脱臼しただけの文脈なのだ

激しく隆起する海岸でひろった淫猥な生き物図鑑

に載っていた汚れた古写真の記憶をしぼり出す

分厚いゴム手袋をはめて軽快に手術を

永遠にうるおうトポロジー

ドバトがしゃべくるフィロソフィー

危険な描線はホルマリン漬けにしておけ

太古の矢尻のようなメスで白い腹をまっすぐに裂いていく

亜空を見つめるうつろなかんばせに呼びかけてみても虚しい

未来形で書かれた昔話を暗唱すれば、黒目がぐるりと後ろを向く

Read More ...

アナコンダは沼から起立しおろかな虹色の太陽柱になった。幾何学のかたちをした猛獣が地面からかたどられると、すぐさま柱のよこっ腹にみついて引きちぎった。らう、と蛇はひと声ないて垂直な夜に向かってやわらかい腹を割ると、血も液もないプラスチックのように乾いたはらわたが、まっすぐに跳び出て夜の板を突きやぶった。おかしいかおかしくないか、下半身だけで返事してお尻をまくり上げたまま爪先立ちでポーズするから見てごらん。頭の太陽はぐらっとゆれて、ゆらんゆらん、ぼろん、と背後に落っこちた。形式美のニキビまみれの白眼で蛇の頭がにらみつけても、知らない。轟々と風の吹く静かな湖面から月が生まれて夜は、不完全のまま満ちることにひたすらにとらわれの心。蛇の産卵はなはなだしくも翻筋斗もんどりうって割れ目をひきさき出るわ出るわの大出玉。殻の内側から見る世界のそら美しさ、はかない惰夢をつみかさねるだけでただもう無駄に夢のダムは大決壊、とほうもない夢の濁流と化す。大樹の幹のような太い河、一本。その穂先で夜は描きなおされ、きょとんと空に置かれている。無情となげいてみても虚しい夜空、一本の線が飛んできてにやにや笑いをつけたしていった。すべての卵はかえり、平らな夜の揺籃の上をすうすうとすべりおちたあと、濁流にのまれてすべてつぶれた。蛇の頭が遅い涙で滂沱ぼうだしているがそれもまた、奇妙な夜から朝への緞帳どんちょうだった。

Read More ...

物語を求める奴が多すぎる

物語禁止令

が発布され、禁を破ったものが捉えられた

ーー捕まえてきました!

ーーよろしい、首をはねよ!

ーー中にスイカが入っています!

ーーよし次っ!

ーーネズミです!

ーーミミズです!

ーー穴です!

ーーちょっと待て! 穴だと?

ーーはいっ穴です!

ーーこいつを連れていけ!

報告した役人は何かをわめいていたが、連れ出されていった

穴はその夜のうちに全土をおおいつくした

人々の肉も魂も絶叫もすべて丸呑みした

王は早々に国を脱出して難をのがれたものの

荒野の野獣に腹を食い破られて地に伏した

穴は夜空に向かって無限大のゲップを放った

人々は物語を求め、その結果

物語の中に飲みこまれたのである

Read More ...

空気イスに座る男が

目を裏返して脳の闇を見ている

雨の洞窟

割礼の記憶

激痛が呼び起こされ

尖った眼球が脳を刺す

あごがガタガタとふるえ

ついには外れて膝に乗る

間髪入れずにだらりと長い舌が

シュルシュルとコードを巻くように

引っこんで男の気道を容赦なくふさいだ

ギョボッ

イェッ イッ カハッ

弾むように全身が跳ね上がると

まもなくグタッと絶命した

ぽっかり空いた口から

主人あるじを失った舌が

蚯蚓みみずのように

テュルテュルと這い出てきて

屍を舐めはじめた

音もなく

血をたぎらせた

一羽のカラスが滑空し

男の舌をくわえて飛び去る

涙をなくした男は

泣くこともできず

ただ腐っている

Read More ...

ゆっくりと刀を抜く

番傘は雨でびしょ濡れ

ふんどしが洞窟のように冷たい

蛙もつらにしょんべんを浴びる

「おどれら!」

と言おうとして、「お」から激しくども

まだ刀は、抜いている途中

闇にならぶ濁った目、目、目、目、

面倒なので「お、お、おいッ」とだけ言って走る

ザバッシャバシャシャシャッ、としぶきが上がる

めちゃくちゃに路地を曲がると猫がいる

窮鼠きゅうそ猫を噛むいやいやいや噛めないって

時系列昇順降順無関係にだばだばと襲い来る、敵々の刀々のあめあられ

を、くねくねとよけながら踊る

路地裏ダンスホール

やがて雨は、

やんだ

おれは屍となって仰向けのまま鉛色の空を見ている

どうやらもう少しで刀が抜けそうだ

おれの刀は犬より長い

Read More ...

ありあまる感情を不出来な箱につめこんで

引き出物として差しだす、それはただれた欲望

吹き出物だらけの美しい顔で、微笑まれても困惑

式場に林立する、反吐をかためて作った人形たち

すべてのペニスはねじ曲がっていて役にたない

オーヴェロバァ〜〜〜

新郎、新、ガーガーピーピー、郎はガーガーピーピー、どこですか

おお、舞台そでで倒れて泡を吹いているじゃあないですか

さすが新婦だ 仕事が早い…ひそひそ声がホールにこだまする

カ・カ・カ・カッ

長いですからね、ご覧なさいあのハイヒーーールを…

オーヴラヴォ〜〜〜

盛大な拍手を! 拍手を!

ミルクを持って来い、ミルクだ

いいね、いいね、の大合唱

蛆ひとつわいていない、ご覧なさいあの美体を…

神聖なる新婦です

記念にどうです踏みつぶしていきませんか、ここに新しい新郎野郎です

写真を撮るのも良いですね、写真屋はあそこで裸踊りをしていますから

おや、笑いすぎて血を吐いた

楽団は演奏を開始

箱を開けると小さな式場だ

欲望が詰まった婚姻式だ

Read More ...

女は山になった

森林地帯を濃い体液で濡らす

蝸牛は腰線上をすべっていく 

蜘蛛は天球からぶら下がっている

すべては緑からうすいピンクへと、変わる

山女の恥毛にちいさな食台がおかれて、午餐が始まる

牛乳壜のなかに泳いでいるは哲学者

身を屈めて見つめる

太陽光線が卓上を跳ねまわる

不意に、りんごが割れた

今日はもう帰れない、と知る

太陽光線が危険水域を突破して、サイレンが鳴る

ほむらは足元まで来ている 災厄が踊っている

夜の代わりに黒い穴が私を忘却へつれもどす

重さが私を置き去りにしていく

ここでは皆狂っている

狂いのない世界など初めからどこにもなかった

ゆっくりと淡いのピンクへと染まっていく


止まれ

止まるな


あの山は、私だった

Read More ...

コーチャーのハンドサインは

「脳を割れ、」

すばやい視線で敵を斬る 7人倒れた

おれはZUGAI頭蓋を引き裂いて立つ

NOUがプルルと震える

テレビのなかは生臭い水で満ちて、冷臓庫のHARAWATA臓物が泳いでいる

走り出せ、牽制球を恐れるな、まだ間に合う

深夜のドゥーム

暗闇が目を射る

白い女が見舞い姿で立っている 客席

もう昨日には死んだんだ

おれが遺書を書いたんだ

ブルーインクでおれ宛に

コーチャーはヤニ枯れた歯で笑う

右上2番C1、3番C2、飛んで飛んで6番C4

丸見えになるカリエスたち

を、おれは暗算そらで読み上げる

感情を捨てろ 紙に描いて捨てろ

もう脇腹が痛くてしかたない

滑りこんで白煙が上がる

OUT!!

Read More ...

〈序章〉

昆虫は電流をうまそうに喰っている

繁殖の速度がぬるいからすぐに絶滅した

地殻変動も起こっていないのに


〈第一章〉

都会の女はスカートを持ち上げ

蒼ざめた顔でコーナーを突っ切っていく

太ももが笑いながら観客席を通り抜ける

楽団がネッケを演奏する

クシコス・ポス


〈第二章〉

大運動会があくびをして閉幕

団長は夕陽の裏側めざして逃げ帰っていく

かろうじて月がその爪をのばし

赤い耳を切りおとした


〈第三章〉

鱗を縫い合わせて皮膚をつくる

金属のように冷たい手がそこにある

テーブルに置かれた両耳

黄金の羽を裏返して、都会の女は眠る


〈第四章〉

(焼失とのこと)


〈終章〉

夜は盗まれた顔を探し回っていた

やむなく太陽がだるそうに朝を始めた

都会の女が朝のパンを焼く

窓の外を、人々が逃走していくのが見える

皆、靴下を履き忘れている

足の裏に陽があたって、まぶしい

Read More ...

欲望の原野が創造された、記
肉付きのいい男たちがぎっしりと横たわっている
肌はぬらぬらだ
励起した男根が天を刺すように、男林だんりん

豆のような産婆が、無言でその肌をひっかいていく
そのたび、男の豪腹は どう!と波うってふるえる
結果、全員が耐えきれず懐妊 愚かである

あたら、児が宿れるような器官もなく
むっちゃくっちゃに器官をおしひろげてペニスを胎とす
うおんうおんと男林の目に涙

とこしえの滂沱と、咆哮、ふくれきったペニスよ
たまらず陽は陥没し、漠とした夕暮れがきた
ぶよんぶよんと腹が揺れている

地の果てまで、紅に染まって
Read More ...

ストライクコース、ど真ん中!
思い切りスイングしておまえの頭を叩く
軽い打撃音のあと
頭は暗い都市の空を飛んでいく
きらめく虹色ネオン
道端で意識をうしなう詩人たち
みな踏みつけてぐしゃぐしゃの大通りを歩いていく怪獣
が、おまえの頭をキャッチして丸飲みする
糞もたれ流しだ
それでいい
それが美しい
絢爛に破壊された未来都市を突っ切っていく怪獣の内臓
のなかは、生あたたかいババアの胎内だ
おまえの頭は糞となって生まれ直すだろう
その、祝福を… ! 

- - - - -

(以下は改敲し作品集に収録したもの)

ピッチャーゆっくりしたモーションで投げました
バッター見逃し、キャッチャーがピッチャーの頭をキャッチして丸飲み
ストライク、三振
バッター怒り浸透、糞もたれ流しだ
それでいい
それが美しい
監督がなぐさめます
ベンチのなかは、生あたたかいババアの胎内だ
おまえの頭は糞となって生まれ直すだろう
監督!
祝福を… !
おや、ピッチャーは感動に打たれ自爆しました
グランドに飛び散った、色鮮やかな怪獣の内臓
拍手、大拍手
回はラッキーセブン、それでは皆さん「わたしを野球に連れてって」を歌いましょう

Read More ...

ピンクの色をしてる
(ピンクの言語で話そう。)

言語は、音楽と、同じ である
の「である」を、で/あ/る/に分解

言語 は捨てる
音楽 はすでに無い

で・・・・・電気信号

あ・・・・・汗

る・・・・・フィニカプテルス ロセウス

フィニカプテルス ロセウスは一本足で立つ
彼らの膝をのばすことは、膝をまげること
立つ土下座、座る起立

ピンクの空を、
土下座のカタマリが縷々累々と飛んでくる

それはもう「る」じゃない、それは「す」だ
群れをなすすすすすすが発熱して地獄の暑さ

たらり、たらりと
流れてくるものあれはなんなんです?

それは汗です。

すの汗は(、)

Read More ...

わしは好き者であるから
思いついた下衆はなんでも成する

人間の肌とか粘膜は
だいたいぬめっこいものが好物でな
脳髄はそういう触りを喜ぶようにできている

特に摩羅だな、
舌や瞼や尻の穴などもそうだ

ぬめいもの、ナメクジ、みんみず、どぜう
そんなものをたくさん捕まえてこさせてな
風呂にして入るのだが、けっこうな極楽地獄だ

やつらがわしの肉の下でな、苦しそうにのたうつのだよ
それがまた強烈な電気で、わしの神経が痺れるようなのだ

おう、おう、おう

精をこすり出してやるとな、
またいっそう身もだえて
わしにむしゃぶりついてくる

いやいや、ものの例えじゃよ
そういう女がたまにおるという話だ
山深い湯治場で飯盛りしてるような女よ

しかしまあ人間は

Read More ...

天をつきさす鋼鉄のパイロンは、腐ったバベルの臭い

その裂け目からには、
静脈色のランプの明滅や、
からまり合いながら暴走する
チューブの群れが見える

いよいよ欲望の鋭角を反らせて、

咆哮、爆発

腐食した金属大地は恐怖にふるえ、
粘っこい失禁をした

勢いも猛々しく、パイロンは天をつき破り、
地獄の第二圏へと突入を始めた

止められない欲望の楽団が、
あまい痴呆の声で讃歌する

内部チューブは重々充満、
存分に鉄のスピルムを放出、
静かにオプスを終える

白濁の沼地と化した荒野に
なま臭い風がたむり、
夕暮れが空をえぐっていった

Read More ...

無垢なさかな

の体をひきさいて

鉛のペニスをさしこんでいる

内臓をえぐりだし

血まみれのベッドで

さかなは息絶える

さかなの透明な絶叫は冷蔵室の空でこおりつく

さかなたちの叫びの結晶で

室ははりさけそうだ

さかなが最期に味わったのは

ぬらぬらと光る金属質な切れ味

気持ちよくいけたかい

ペニスをにぎった男の目が血走っている

口の端に、よだれ

Read More ...

かわいた砂漠の皮膚のしたを

地下水のように血脈が蜿蜿うねっている

どろりとした黒い血が

おまえの欲望を溶かしこんで

わたしの熱いほとへとそそいでいる

絞めてやろうか そのだらりとしたふぐりを

おまえの喉仏がナムナムと上下するのが丸見えだ

三月十日みつきとおか 伸ばしに伸ばしたこの爪で

おまえの頸動脈をひと裂きさ

鉄錆の軋んだ音が響いて

聞こえない叫びが森にこだまするだろうよ

Read More ...

たるんとしたその重みは欲望への供物

ひらかれた峡谷に彷徨いこむアナコンダを

キリキリとしめ上げてやりたい

おまえのアナコンダは小さく悲鳴を上げ

びちちびちち と、のたうちまわり

白いげろにまみれながらちぢんでゆくのさ


精気を吸って太くなったわたしのふとももは

ただ、ぶよぶよと揺れるようにわらっている

Read More ...

私は日記を書きたかった

死ぬのは怖い

未来の私は死んでいるので

日記も詩も書くことはできない

だから私は日記を書いておくべきだった

いまさら帳面を広げても

口から汚らしい内臓が出てきて

白い頁を黒く染めるだけ


誰かある、ここへ、ペンを持て!

私の代わりにすべてを書きだすペンを…


あとはただ、祈り

自分の棺の蓋をしめるのみ

Read More ...

誰だって雪の中を歩いていくような孤独を飼っている

ずぶ ずぶ ずぶ

と真っ黒い雪に足を沈めながら進むしかない

うしろからは赤い口をめくりあげた狼の群れ

この腐った身は重力のくびき

手も足も、眼球も耳朶もちぎれて飛んでゆく

錆びた鉄の森を抜ければ、雪原 


どこまでも白い ただただ白い

どんな白より、もっと白い

Read More ...