空気イスに座る男が

目を裏返して脳の闇を見ている

雨の洞窟

割礼の記憶

激痛が呼び起こされ

尖った眼球が脳を刺す

あごがガタガタとふるえ

ついには外れて膝に乗る

間髪入れずにだらりと長い舌が

シュルシュルとコードを巻くように

引っこんで男の気道を容赦なくふさいだ

ギョボッ

イェッ イッ カハッ

弾むように全身が跳ね上がると

まもなくグタッと絶命した

ぽっかり空いた口から

主人あるじを失った舌が

蚯蚓みみずのように

テュルテュルと這い出てきて

屍を舐めはじめた

音もなく

血をたぎらせた

一羽のカラスが滑空し

男の舌をくわえて飛び去る

涙をなくした男は

泣くこともできず

ただ腐っている

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ゆっくりと刀を抜く

番傘は雨でびしょ濡れ

ふんどしが洞窟のように冷たい

蛙もつらにしょんべんを浴びる

「おどれら!」

と言おうとして、「お」から激しくども

まだ刀は、抜いている途中

闇にならぶ濁った目、目、目、目、

面倒なので「お、お、おいッ」とだけ言って走る

ザバッシャバシャシャシャッ、としぶきが上がる

めちゃくちゃに路地を曲がると猫がいる

窮鼠きゅうそ猫を噛むいやいやいや噛めないって

時系列昇順降順無関係にだばだばと襲い来る、敵々の刀々のあめあられ

を、くねくねとよけながら踊る

路地裏ダンスホール

やがて雨は、

やんだ

おれは屍となって仰向けのまま鉛色の空を見ている

どうやらもう少しで刀が抜けそうだ

おれの刀は犬より長い

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ありあまる感情を不出来な箱につめこんで

引き出物として差しだす、それはただれた欲望

吹き出物だらけの美しい顔で、微笑まれても困惑

式場に林立する、反吐をかためて作った人形たち

すべてのペニスはねじ曲がっていて役にたない

オーヴェロバァ〜〜〜

新郎、新、ガーガーピーピー、郎はガーガーピーピー、どこですか

おお、舞台そでで倒れて泡を吹いているじゃあないですか

さすが新婦だ 仕事が早い…ひそひそ声がホールにこだまする

カ・カ・カ・カッ

長いですからね、ご覧なさいあのハイヒーーールを…

オーヴラヴォ〜〜〜

盛大な拍手を! 拍手を!

ミルクを持って来い、ミルクだ

いいね、いいね、の大合唱

蛆ひとつわいていない、ご覧なさいあの美体を…

神聖なる新婦です

記念にどうです踏みつぶしていきませんか、ここに新しい新郎野郎です

写真を撮るのも良いですね、写真屋はあそこで裸踊りをしていますから

おや、笑いすぎて血を吐いた

楽団は演奏を開始

箱を開けると小さな式場だ

欲望が詰まった婚姻式だ

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